この連載は、事件や災害時の実名報道のあり方を入り口に、令和という時代を手がかりにして、インターネット時代のジャーナリズムの現状と課題について考えてきました。最終回となる今回は、将来のジャーナリズムの姿を展望します。
英「エコノミスト」誌2011年7月9日号は、「未来のニュース」をテーマに特集しました。その中で、ジャーナリズムに求められる新しい倫理基準は、「客観性」ではなく「透明性」だと結論づけました。この特集は、東洋経済オンラインの編集長やニューズピックスの初代編集長を務めた佐々木紀彦さんの著書「5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?」(東洋経済新報社、13年8月)に教えてもらいました。著書で佐々木さんはこう指摘しています。「筆者のバックグラウンド、経歴、そして、政治的なスタンスまで披露した上で、その人間が『私はこう思う』と述べるのは一向に構いませんし、議論を活性化させるはずです。客観を装いつつ自分の思想を紛れ込ませた記事より、自分の立場を明確にして意見を堂々と述べた記事の方が、読む方もすっきりします」。私も強く同意します。
私の世代の記者は、「客観性」を担保する記事の書き方を訓練されてきました。「……とみられる」「批判を浴びそうだ」といった表現や、悪評が立って今はほとんど使われない「成り行きが注目される」などは、「客観性」を見せようとした苦肉の知恵だったとも言えます。しかし、文章でも映像でもすべての著作物は、主観を排除しては成立しません。20世紀のジャーナリズムは、その自己矛盾を抱えながら試行錯誤を続けてきたとも言えます。長くマスメディアが発信手段を独占していたことも影響していたと思います。
しかし、インターネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の登場で、誰もが発信できる時代になった今、状況は一変しました。極論になりますが、記者も無数の発信者の一人として、信頼を獲得していかなければなりません。インターネットの時代は、「誰が言っているのか」が強く問われます。どんな経歴の記者が、どんな取材プロセスを経て、その記事を書くに至ったのか。「透明性」がジャーナリズムの信頼の礎になると思います。
そんな時代の境界線を考える時、米紙ニューヨーク・タイムズの二つの報道が参考になります。03年のイラク戦争は、実際には存在していなかったイラクの大量破壊兵器が開戦の理由になりました。この時、ブッシュ政権からの情報を次々と特報し、開戦を後押ししたと批判されたのがニューヨーク・タイムズでした。05年に編集局長が総括していますが、イラクに関連する12本の記事に問題があり、うち10本はジュディス・ミラー記者が報じていました。ミラー記者はピュリツァー賞受賞の花形女性記者で、政権内部に深く入りこんで情報を得ていました。しかし、政権との距離が近すぎたことで、情報のチェックがおろそかになり、報道をゆがめる結果になりました。
権力への密着取材は「アクセス・ジャーナリズム」と呼ばれます。日本の「番記者」や「記者クラブ」の取材に近い意味があります。ミラー記者の報道は「アクセス・ジャーナリズム」のあり方そのものを問うことになりました。ミラー記者はその後、イラク戦争をめぐって起きた米中央情報局(CIA)工作員身元漏えい事件に関係して収監されることになります。
このイラク報道と対極にあるのが、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏のセクハラを告発した17年10月の報道でした。ミーガン・トゥーヒー、ジョディ・カンターの2人の女性記者が担当し、ピュリツァー賞を受賞しました。彼女たちは「アクセス・ジャーナリズム」の手法ではなく、むしろ業界から距離があったために、業界内のゆがみに気づき、業界のドンの行状を暴くことができました。
イラク報道のミラー記者は、男性と互角に渡り合って取材競争を続け、政権内部に食い込んでいきました。一方、セクハラ報道は、女性記者ならではの視点によるものでした。報道後、世界の女性たちに共感と連帯の輪が広がり、SNS時代ならではの#MeToo(ミートゥー)運動へと発展し、ジャーナリズムの新たな可能性を示しました。
「アクセス・ジャーナリズム」はもちろん今も大切であり、ジャーナリズムの土台でもあります。しかし、「アクセス・ジャーナリズム」だけを誇りにする時代ではもはやありません。それは、米政府が秘密裏に膨大な個人情報を違法収集している実態を暴いたエドワード・スノーデン氏の告発報道にも見て取れます。
米国家安全保障局(NSA)などに所属していたスノーデン氏が告発先として選んだのは、ブラジル在住のジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド氏でした。その経緯は「暴露 スノーデンが私に託したファイル」(新潮社、1…
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April 05, 2020 at 03:00AM
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令和のジャーナリズム同時代史:(最終回)ジャーナリズムを探す旅路 - 毎日新聞 - 毎日新聞
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