すべてのカフェ、レストランの扉が閉ざされたまま季節が巡っているパリ。そんな未曾有の苦境のなか、コロナ後の世界への希望をつないでくれるお店があります。
今回ご紹介する「TRAM(トラム)」がそのひとつ。今年1月23日、パリのカルティエ・ラタンで産声をあげたカフェ・リブレリー、つまりカフェと本屋さんがひとつになった新しいコンセプトのお店で、オーナーマダム、マリオン・トラマさんが長年抱き続けていた夢が形になったものです。
ところで、パリにはカフェも本屋さんもたくさんありますが、カフェと本屋さんが一つ屋根の下にあるというのはまれです。
「そういうアイディアを持っている人はたくさんいます。もともとが本屋さんでカフェも併設したいというケースとか。けれども彼らにはレストランの経験がない。ふたつの仕事は全く別のものですから、片方だけ知っていても実現するのは難しくて、中途半端なものになりがち。それぞれのスペシャリストがいることが必要です」
と、マリオンさんは言います。
そもそも彼女はパートナーのポールさん、そして腕のいい料理人であるお父さんと一緒に、高級デパート「ボンマルシェ」界隈でカフェレストラン「TRAMA(トラマ)」を営み、人気を博していました。つまり、彼女はカフェレストランのプロなのです。
そして夢の実現にあたっては、本屋のプロにこのプロジェクトに加わってもらうことにしました。それがマリオン・ヴォルフさん。パリの有名老舗書店「Delamain(ドラマン)」でキャリアを積んだ女性です。つまり「トラム」は、それぞれの道のエキスパートであるふたりのマリオンさんが切り盛りする店なのです。
カルチェ・ラタンという響きからすでにパリの文化的な香りが漂ってくるようですが、この界隈の要ともいうべきパンテオンがそびえる丘の上、石畳の坂の途中に「トラム」はあります。
「本屋さんという存在は場所を活気づかせる役割があると思います」
と、マリオン・トラマさん。彼女はまたこう続けます。
「わたしは本が好きで、長年自分でも本屋さんをしたいと思ってきましたが、活力の感じられない本屋さんが多いのを残念に思っていました。本屋離れというのは、人が本を読まなくなったからというせいだけでなく、みんな似たような感じで個性が感じられないからという理由もあるのではないでしょうか。
そういう意味で、本屋さんには美的魅力も必要だと思います。すでに読書好きな人にはそんな要素は必要ないかもしれませんが、本屋さんに馴染みのない人でも、外から見て綺麗だから思わず入ってみたくなる、そうして徐々に本に親しむようになってゆく。つまり本以外の要素に惹かれたことがきっかけで本屋が好きになる人もいると思うのです。
カフェやレストランがある雰囲気に惹かれて足をとめる人も少なくないはずです。散歩の途中で気軽にちょっと本屋に入ってみる。そしてテラスの椅子に座ってお茶やスイーツを楽しんだりできる」
マリオンさんのイメージどおり、このお店には他のカフェや本屋さんにはないなんとも言えない魅力があります。ロックダウンのために、カフェレストランは目下テイクアウトのみの営業ですが、早くも口コミで話題になり、「トラマ」時代の常連さんたちも通ってきてくれるようになっているのだとか。
「トラマ」時代の人気メニューのタルタル、フィッシュアンドチップス、そしてトリュフオイルをきかせたクロックムッシュも「トラム」のメニューに引く継がれるそうですから、レストランの営業が始まれば、満席必至のお店になるに違いありません。
「変化のときが、ちょうどコロナ禍と重なってしまったけれど、立ち上がる時は、前よりもより強くなっているはず」とマリオンさんは言います。
「試練はあえて探すものではないし、なければない方がいいけれども、もしもそれと立ち向かわなくてはならいのなら、前よりもきっと強くなっている」
同時代を生き、夢を形にしてゆく彼女の言葉に力をもらったような、そんな気がしました。
※お店の様子はこちらの動画からもご覧いただけます。5分すぎくらいから「トラム」が登場します。
からの記事と詳細 ( 【パリ】人気カフェレストランのルネッサンス 本屋併設でカルティエ・ラタンの新名所に(鈴木春恵) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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