「ひきこもり」の人たちは、全国に100万人以上いると推計される。実はその半数以上にあたる約61万人が中高年(40~64歳)であることが、昨年内閣府が行った初の調査結果で明らかになった。親とともに「ひきこもり」の子が孤立する「8050(はちまるごーまる)問題」は、高齢化が進んだことで最終局面を迎えている。親が支えられなくなり、生きる術を失うなど、ひきこもった末に命を落とす「ひきこもり死」が全国で相次ぐ。命の危険が迫っているにもかかわらず、残された子がひきこもりを続けるのはなぜなのか。この問題に出口はあるのか。(取材・文:NHKスペシャル取材班/Yahoo!ニュース 特集編集部)
2年前の冬のことだった。取材班は、あるひきこもり男性の死に直面した。
神奈川県横須賀市に暮らす56歳の男性は、10年前に両親が死亡した後、自宅に一人取り残され、貯蓄を切り崩しながら暮らしていた。ガスや水道は止まり、家屋の外壁は朝顔のつるで覆い隠され、庭先はゴミであふれていた。市の福祉職員は支援の必要性を感じ、訪問を続けていた。56歳男性はこう話していたという。
「いざという時にお金がないと困るので、なるべく使わないようにしている」
男性は、腕の骨やあばら骨が浮き出るほど痩せ細っていた。「病院に行かないと。あなたの命が危険です」と説得にあたる職員に対し、男性はていねいな口調で「自分の力で何とかしたい」と繰り返し、支援を断り続ける。
やがて男性は、職員が訪問しても顔を出さなくなった。職員が警察と一緒に踏みこんだところ、男性はゴミに埋もれた状況で亡くなっていた。栄養失調による衰弱死。1月初旬、冷えこみの厳しい日のことだった――。
男性は最後まで「自分の力で何とかしたい」とし、支援を受けようとはしなかった。命の危険が迫っているのに、なぜそのような選択をしたのか。
取材班は、男性と過去に接点を持った人々を訪ね歩いた。幼少時代を知る近隣住民。中学、高校時代の同級生、塾講師。そして職場の同僚ら。数十人の証言を得るなかで浮かび上がってきたのは、「(男性は)まじめだった」という言葉だった。
56歳男性の名は「伸一さん」という。
伸一さんは、高校卒業後、英語を使った仕事に就きたいと英文科を目指して大学受験に取り組んだ。しかし、成績は思うように上がらなかった。やがて進学を諦め、ハローワークで仕事を探し始める。非正規で複数の職場を渡り歩いたのち、診療所の医療事務で正規採用される。喜んだのもつかの間、伸一さんは厳しい現実に直面する。経営拡大路線を進める職場の業務は多岐にわたり、覚えなければならないことも多く、伸一さんは深夜まで残業する日々を送っていた。当時の上司はこう言っている。
「まじめな性格のあまり、できないことをできないと言えない人だった」
結局、伸一さんは職場を去る。その後、再就職に苦戦。心のバランスを崩し、30年以上にわたりひきこもることになっていくのだった。この間、伸一さんは何を考えていたのか。部屋から見つかった遺品に目を凝らしていくと、本人はこの生活から抜け出したいと願っていたことがわかった。
ノートには、英文法を勉強していた証拠が残されていた。痕跡は亡くなる直前まで続いている。あるページには「ハローワーク」「申し込み締め切り」などの文字が残されていた。最期まで、伸一さんは仕事を見つけたいという意思を持っていたことがうかがえた。しかし、それがかなうことはなかった。ノートの最後のページには、こう書き残されている。
「人生とはこうも、悲しいものなのか。悲しみに、満ちているものなのか」
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November 28, 2020 at 03:01PM
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「ひきこもり死」を防げるか――高齢親失った中高年「8050問題」最終章 - Yahoo!ニュース
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