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レストランのオーナーは、新旧さまざまなPOSプラットフォームからの激しい売り込みを受けており、その一部は商談に飛びついている。このような決定は顧客に直接影響を及ぼさない。注文が受け付けられ、料理が提供されれば、顧客には関係がないことだ。しかしレストランのオーナーは、自社のソフトウェアスタックが旧式だと聞かされ、旧来のレガシーシステムからの移行を検討するようになってきている。
米国におけるレストランの管理技術は、何十年にもわたってアルファポス(Aloha POS)やライトスピード(Lightspeed)などの古い企業に独占されてきた。これらの企業はそれぞれ、1998年と2005年に創設されたものだ。次の10年間には、2009年に創設されたスクエア(Square)や、2012年に創設されたトーストインク(Toast Inc.)など、新しいシリコンバレーの企業が勃興した。今日ではさらに多くの企業がこの分野に存在し、レストランでの採用を勝ち取ろうとしている。そしてこれらの企業は、昨年調達した膨大な額のベンチャーキャピタル資金により活気づいている。このような新興企業のひとつがスポットオン(SpotOn)で、2017年に創設され、昨年9月に3億ドル(約384億円)を調達し、現在の評価額は31億5000万ドル(約4030億円)だ。
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その結果、レストランでの採用を目指すPOS業者の数が急増している。しかし、これらの業者は自社商品の採用に熱意を持つ新しい見込み顧客を数多く見つけられるとは限らない。一部のレストラン経営者は新しいツールに積極的だが、技術的なオーバーホールのために業務の運営を中断することを躊躇していると米モダンリテールに語る経営者もいる。これらの消極的な経営者は主にシステムの信頼性に懸念を抱いており、すでに熟知しているシステムを使い続けることを選んでいる。
POSの競合の過熱
これらのプラットフォームがはじめて市場に投入されたときは、顧客の勘定やチェックアウトの計算が主な用途だった。技術ツールが進化し、顧客の行動も進化するにつれ、プロバイダはワイヤレスでの支払いや、AndroidおよびiOSタブレットの統合などの新しい機能を追加しはじめた。これらの機能は、パンデミックがはじまり、レストランへのオンラインでの注文とカーブサイドピックアップを処理できるオールインワンの管理システムが必要になったことで、必要性がより明白になった。
それによって、トースト、スクエア、アロハ(Aloha)などの企業はクライアントを維持するため設計の改良を続けることになった。例として、スクエアの有名な回転式レジが挙げられる。
パンデミックによるつまずきはあったが、これらの企業はビジネスにおける自社ツールへの需要から利益を得てきた。たとえばトーストは2020年4月に、パンデミックにより多くのレストランが閉店したとき、従業員の50%をレイオフした。それ以後に、既存および新規ビジネスオーナーのあいだでPOSおよび管理技術への需要が復活し、同社は昨年9月には株式公開まで行った。2021年第4四半期に、同社の収益は前年比で111%増加し、5億1200万ドル(約655億円)に達した。
2021年6月の時点で、トーストは4万8000店のレストラン店舗と提携し、その年に380億ドル(約4.8兆円)を超える支払いを処理した。一方でアロハは、トーストよりも約15年長い歴史を持ち、約5万5000店のレストランで自社のPOSおよびバックオフィスのオペレーティングシステムが使用されている。
これに対してスクエアは、最近ブロックインク(Block Inc.)と社名変更したが、2009年の創設以来B2Bの収益を伸ばしてきた。同社は携帯カードリーダーで知られており、ビジネスが再開されていくにつれ、小売業者やレストランの注目を集めるようになった。会計年度2021年全体において、同社の合計実収益は176億6000万ドル(約2.2兆円)で、2020年よりも86%増加した。
しかし、新規参入した企業は依然として、このような実績ある企業から市場シェアを奪う機会があると考えている。
スポットオンのイノベーション責任者を務めるベン・プライアー氏は、「当社は自社を、POSプロバイダより広範な事業だと考えている」と米モダンリテールに語った。
「従来型のPOSシステムを持つオーナーは多くの場合、自社が技術的に必要とするものをどのように明確化すべきかを理解していない」とプライアー氏は述べる。サードパーティの配達アプリやオンライン予約など多くの新しいチャネルが採用されている状況で、オーナーはこれまでより多くのデジタルツールを扱う必要があると、同氏は説明している。「当社は、オペレータが自社のデータをコントロールできるようにもする」。
スポットオンの最新のクライアントには、ライブネイション(Live Nation)、マディソンスクエアガーデン(Madison Square Garden)、ヤンキースタジアム(Yankee Stadium)があり、同社の技術によってPOSと場内の配達が行われている。また同社は植物原料のピザレストランのダブルゼロ(Double Zero)など小規模のチェーン店や、全国の独立したバーやサロンなどともパートナーシップを結んでいる。同プロバイダには現在約3万の顧客があり、その40%はレストランだ。同社は2021年に、収益が前年比で100%増加した。
プライアー氏は、同社独自の予約システムと、従業員のチップ割り当て管理システムのドルチェ(Dolce)も差別化要因として挙げている。同社のUXソフトウェアもまた、バーやレストランが営業時間、たとえばハッピーアワーやブランチ時間などに基づいてメニューをカスタマイズするために役立っている。
「2022年に当社は、プラットフォーム全体にわたって買収と合併を最大限に行う」と同氏は述べている。同社は昨年自己資金を使用して、スポーツ会場、動物園、テーマパークなどを顧客とするデジタルおよびモバイルコマース支払プラットフォームであるアペタイズ(Appetize)を買収した。
ビジネスに対して切り替えを行うよう説得する方法について、同氏は同社がいくつかのサービスとツールを提供していると語っている。「当社のシステムは初期コストが低く、契約を行わないため、簡単に販売できる」と同氏は述べる。また同社には数百もの代理人が存在し、バーやレストランを訪問して、機能をマネージャーに売り込む。また、同社の毎日24時間年中無休のサポートラインも、POSの停止を心配するオーナーに対して重要なセールスポイントだとも、同氏は言及している。
新しいシステムへの投資に対する消極性
新しいPOSシステムが提供する機能は魅力的だが、多くのレストランのオーナーはデジタルPOSシステムが停止すればビジネス上の損害を被る立場で、もっとも重視しているのは依然としてシステムの停止が最小限なことだ。クラウドベースのシステムの停止はリスクが大きく、ビジネスの勘定や従業員の給与支払さえも停止するおそれがある。昨年スクエアは、ソフトウェアの欠陥により全国で数千人ものバリスタや作業員に対してチップの大きな損失を招いた。
ニューヨークを拠点とするフラティロンルーム(Flatiron Room)とファインアンドレア(Fine & Rare)のオーナーであるトミー・ターディー氏は、デジタルの新機能は信頼性の埋め合わせにはならないと語る。フラティロンルームが10年前に開店して以来、同氏のビジネスはどちらもアロハを使用してきた。「当社のPOSシステムは大きな初期投資だった」と同氏は、ハードウェアの初期投資が数千ドルにのぼったことに言及している。「その投資と、従業員が現行のシステムを使い慣れていることが、現行のシステムを使い続ける強い理由だ」。
実績のあるシステムを捨てるのは難しい。新しいレストランを開設するとき各種のシステムを使用したオーナーの場合は特にだ。
ニューヨークを拠点とする屋上ラウンジのサムウェア・ノーウェア(Somewhere Nowhere)の共同創設者であるサミーア・クレシ氏は、「ほかのPOS業者から常時連絡をもらうが、近いうちにトーストから別の製品に切り替える構想はない」と述べている。デジタル予約システムの切り替えとは違って、新しいPOSシステムのインストールはより広範な影響があり、従業員をトレーニングして、新しいデバイスを日常の操業に統合する必要があるという。
同氏は、管理システムがチェックアウトだけでなく、従業員のライフサイクル全体を扱えることが重要だと語る。これは、接客業では従業員の出入りが変動し、それにより新人研修、雇用フォーム、スケジュール、年末の書類提出の管理が非常に難しくなることを考えれば特に重要だ。同氏は、トーストは特にこれらのツールの提供において抜きん出ていると語る。
POSプロバイダからほかに何を期待するかという点について、サムウェア・ノーウェアのような、一晩に6時間しか営業しないコンセプトの場合、モバイルベースのPOSが収益性を最大化するためもっとも有効だと、同氏は語る。「テーブルでの支払は大きな利便性で、業界がその方向に向かいつつあることは好ましく思っている」と同氏は説明する。アロハなどのレガシーシステムは依然として据え置きのPOSに依存しているのに対して、トーストのようなソフトウェアはiPadやほかのタブレットと統合されている。
レストランのグループ間で異なるプラットフォームをテスト
一部のレストランは、新しい店舗を開設するときに新しいPOSシステムもテストする。既存の店舗に新しいPOSを設置するよりも現実的なためだ。
ソルトズキュア(Salt’s Cure)のオーナーでシェフでもあるクリス・フェルプス氏は、2017年にロサンゼルスの店舗を開設したとき、最初にトーストプラットフォームを使用した。しかし同氏は、機能的には似ているが、より堅牢なサービスを提供するという、ほかのシステムの話を常に耳にしていた。そのため、ソルトズキュアが2021年にニューヨークの支店を開設したとき、同氏はスクエアをテストすることに決めた。
同氏がこれを選択したのは、システムの設計について何年も話を聞いたあとのことだ。「スクエアはハードウェアとソフトウェアを保有していたため、問題点もリアルタイムで修正できるだろうと、私は信頼した」と同氏は述べている。そうでなければ新しい店舗でも使い慣れたトーストの技術を使用していただろうと、同氏は語る。どちらのシステムもレストラン向けとして的確に設計されていたが、スクエアは技術企業であるため、ビジネスに対してもっとも競合力のある月額使用料を提供できると、同氏は語っている。
しかし、実績のある企業でも技術的な困難に陥ることはある。たとえばソルトズキュアのロサンゼルスの店舗は最近、トーストのシステムが停止したため、何日間もの休業を余儀なくされた。「システムが完璧であることは考えられないため、ベストの結果を望むしかできない」とフェルプス氏は述べる。
ニューヨークを拠点とするエメッツオングローブ(Emmett’s on Grove)のオーナーであるエメット・バーク氏は、昨年12月にピザレストランを開設するときスクエアのシステムを選んだと語る。「料金は競合力があり、単純な設計なのが好ましかった」と同氏は述べる。店舗の開設以来、いくつかの競合他社から売り込みがあったことを同氏は認めている。「当社は切り替えを行おうとしたが、月額使用料の関係で、このシステムを使い続けることにした」と同氏は認める。適切な価格なら切り替えを検討すると、同氏は述べている。
デジタル支払プロバイダ間の競争が激しくなるにつれ、接客施設の経営者は、より多くの業者が自社ビジネスの獲得を競い合うようになることを期待している。
最新の機能があっても、切り替え自体がもっとも売り込みが困難な可能性がある。「新しい技術に何千ドルも費やしたあとで、切り替えを望む店はないだろう」とフェルプス氏は語る。
[原文: The digital point-of-sale space is getting crowded and restaurants are wary]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:猿渡さとみ)
Image via SpotOn
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