ポルトガルの首都リスボンの南西1000キロメートルにある大西洋の孤島、マデイラ島。かつてサトウキビ生産やワインの輸出港として発展したリゾート地だ。この島で地元民と観光客から絶大な人気を誇るレストランがある。サステナブル(持続可能)な経営、労働環境問題の改善、デジタルノマド増加に伴う新しい店舗アイデアなど、その革新的な取り組みを取材した。
食事を愛する国民に愛されたレストラン
ポルトガル領マデイラ島は「大西洋の真珠」と呼ばれ、カナリア諸島に並ぶヨーロッパ人にとってのバカンス地。1年を通した温暖な気候と治安の良さに定評があり、新型コロナウイルス禍以前は、年間約880万人の観光客が訪れていた。
このマデイラ島に9年前にオープンし、常に人気ランキングでトップ3に入っているレストランがある。シェフのジュリオ・ペレイラ氏が運営する「KAMPO(カンポ)」と「AKUA(アクア)」だ。KAMPOは肉料理、AKUAは魚料理のメニューを中心に提供している。主な客層は30~50代で、ランチはコースでも14ユーロ(約2000円)と手ごろな価格設定なのも人気の一因だ。
レストランを経営するペレイラ氏は、リスボン出身のポルトガル人。マデイラ島に移住するまでは、世界中のレストランやホテルで経験を積んできた。地元テレビで人気の料理番組を持っていることから、島では有名な人物でもある。
ただおいしくてオシャレというだけなら、はやりものが好きな観光客には受けるかもしれない。だが、ペレイラ氏が手掛けるレストランは地元の常連客が多い。そこに大きな価値がある。ポルトガル人の食事は1日5食。昼食を食べている間に夕食が話題に上るほど、食べることに重きを置いている国民だ。限られた一生の中で、できるだけおいしい食事を取りたいという欲求の強いポルトガル人は、普段の料理や食事にもしっかり時間をかける。
そんな彼らに吟味され、選ばれるレストランがペレイラ氏の店なのである。味だけなく、時代の流れを先取りする斬新な取り組みが、店を訪れた客の好奇心を刺激する。さらに島にある他の多くのレストランにも大きな影響を与えている。
料理をシェアする、サステナブルな地産地消
ポルトガルではレストランなどで食事をする際、日本のように食べ物をシェアする習慣がない。それぞれが自分のオーダーした料理を食べるのが基本だ。しかし、ペレイラ氏のレストランではその習慣を取り払い、お皿をシェアして食べるというコンセプトを採用している。このスタイルは、ポルトガル人や欧州の人にとっては斬新なアイデアなのだ。
店内には、中央に調理スペースを配置したオープンキッチンを採用している。空間が広々と見渡せ視覚的にもインパクトはあるが、スタッフは調理や作業をしながら同時に接客もこなさなければならない。どちらも客の評価に直結するため、飲食店の中でもハードルが高い仕様として知られている。実はこれもペレイラ氏がマデイラ島で初めて取り入れたスタイルだ。
現代では何をするにも無視できなくなったサステナブルな環境への配慮。ペレイラ氏のレストランでは、使用食材のほとんどを地元のもので賄っている。欧州本土から輸送する際に排出されるCO2を削減するためだ。とはいえマデイラ島の人口は25万人、それに加え何万人もの観光客が押し寄せる。地元の食材だけで賄うのは決して簡単なことではない。限られた生産量の地元食材を優先的に確保するには「農家や漁師との連携や信頼関係を築くのが最も大切なことだ」とペレイラ氏は話す。
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