2022年、大みそかの神戸港中突堤。午後10時半、日本最大級のレストランクルーズ船「ルミナス神戸2」の操舵(そうだ)室で、三つのランプが点灯した。エンジンが動き出す。
「出港!」
船長の辻武さん(72)が号令を出した。
初の年越しクルーズ。それ以上に、辻さんは船に乗り続けられる喜びをかみしめた。30年近く在籍した旧運営会社が倒産したのは、新型コロナウイルス禍が日本を襲って間もない、20年3月2日だった。
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その前日、ルミナスの最終便が帰港すると、船内のイベントホールに船員や営業職など約30人が集められた。前に並んだのは、当時の運営会社の役員や弁護士ら7、8人。辻さんは「ただごとではない」と感じた。初めて経営破綻が明かされ、同じ神戸港のクルーズ船「コンチェルト」の運営会社の親会社が引き継ぐことも説明された。
予感はあった。2月に横浜港に停泊中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で感染者が次々と確認され、直後からルミナスでもキャンセルが始まった。当時は1日3便のクルーズを運航していたが、乗客はみるみる減った。
とはいえ「そこまでと思っていなかった」。辻さんらは不安の底に突き落とされた。翌日、当時の運営会社は民事再生法の適用を神戸地裁に申請。その後、破産手続きに移行した。帝国データバンク神戸支店によると、負債総額は12億4300万円。近畿で最初のコロナ関連倒産となった。
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辻さんは長崎県の五島列島出身。16歳で船員になり、外国航路で働いてきた。時代の流れとともに外国と日本を結ぶ船が少なくなり、1990年11月に神戸港へ。先代の「ルミナス神戸」に乗り始めた。
94年、ルミナス神戸2が完成。辻さんは1年の3分の2は船内で寝泊まりし、3分の1は長崎市の自宅に戻る生活を続けた。神戸港に大きな被害が出た阪神・淡路大震災も船とともに乗り越えた。
倒産後も、辻さんは当時の機関長とともに保安要員としてルミナスにとどまった。事業継承の手続きが進まず不安が募る中、「やるべきことをやろう」とメンテナンスに打ち込んだ。
その後、ルミナスは新たな運営会社に引き継がれ、2021年11月、約1年8カ月ぶりに再就航を果たした。機関長は別会社に移ったが、辻さんは「最後までルミナスで」と残った。
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23年が明けた。コロナ禍は続くものの、行動制限は求められず、ルミナスでは初の初日の出クルーズも企画された。大阪・関西万博の開催に向け、神戸-大阪港を結ぶ新航路への就航も計画されている。
初めて船上で年を越した辻さんは「コロナ禍でも前進してきた」と実感し、「新たな展開が楽しみ。船からの神戸港を一人でも多くの人に見てほしい」。船上で見る初日の出に、コロナ禍の終焉(しゅうえん)を願った。
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