Pages

Friday, May 19, 2023

デンマーク「noma」 持続可能なレストラン見据えて - 日本経済新聞

今世紀の食を語る時、避けて通れないのがデンマークのレストラン「noma」(ノーマ)だ。美食とは無縁とされてきた北欧で2003年に開業し、地元の食材や食文化に立脚しながら独創的な料理を作る「新北欧料理」を打ち立てた。その発想は各国のレストランに大きな影響を与え、「世界のベストレストラン50」では10年から21年まで5度首位に。店を目当てに世界中から観光客が訪れ、食材の生産も活発になるといった経済効果をもたらし、「ノマノミクス」の造語も生んだ。

そんなノーマは今、デンマークの店を休業し、京都で5月20日まで2カ月の期間限定店を開業した。

10皿以上から成るコースは、ほぼ全て日本の食材で作られている。しかしどれも初めての食体験、味わいだった。

例えば薄くスライスされたタケノコが透明なだしに浮かぶ一皿。一見シンプルだが、タケノコは薫製したトウモロコシと一緒に炊き、裏にはトウモロコシのペーストも塗っている。だしはヤリイカで取り、こうじのオイルやジャスミンを加えたもの。口に含むとだしの華やかな香りやうまみ、トウモロコシの香ばしさ、タケノコのフレッシュな食感と香りが一体となって広がる。「デンマークから来た私たちが京都の季節や懐石の歴史を学ぶ。そうしてこそ生まれうるものを作りたい」とオーナーシェフのレネ・レゼピさんは言う。

北欧に密着したノーマの料理自体も、異なる食文化を多分に取り込んで発展してきた。開業後、何年も北欧の食文化を掘り下げてきたノーマが「自分たち自身についてもっとよく知るため」に異文化に目を向けたことは、レゼピさんの著書にも詳しい。中でも日本との縁は深い。多種多様なしょうゆや味噌がありながら「それぞれ間違いなく日本の味がする」ことは、北欧らしい発酵調味料作りへの指針となり、店の大きな特徴ともなった。

ノーマのチームは多国籍だ。例えばメニュー開発や食材探しなどを統括するのは今、日本人の高橋惇一さんだ。レゼピさん自身も、幼少期をマケドニアで過ごした。「デンマークの枠を超えた多様な視点があるのはノーマの特徴の一つ」(レゼピさん)という。

期間限定店も、新たな着想を生んできた。毎回準備は大がかりで、今回、京都には100人近いチームほぼ全員が、22年末から移動してきた。全員のマンションに加え、帯同する家族の学校や保育園も手配する念の入れようだ。

チームは懐石料理のほか、禅寺を訪ねて精進料理も学んだ。「野菜を自在に使う文化をおいしく楽しいものにしようということは、今回の柱の一つとなった」と開発チームの高橋さん。トリュフの香りをまとったレンコンのステーキはその象徴だろう。

レゼピさんは四国遍路を回ったり、度々、京都近辺の山を歩いたりした。「そのなかで自然が意外に近いと新たに実感した」。コースは植物の香りや食感であふれている。「八寸」の名が付いた一皿目には野草や花が一面に並ぶ。バラの花はイチゴなどの果実を詰めたセミドライトマトを載せて食べる。甘酸っぱくフルーティーな味わいと香りが自然の美しさを一層印象づける。

食材は日本全国の生産者を訪れて探し回ったという。メニューを考える時には、こうして集めた素材を大きな部屋いっぱいに並べ、チーム皆で改めて試食する。山ほどある中からどの食材をどう調理するか、何と組み合わせるのかを絞り込み、多ければ何十通りも試作してメニューを組み立てていく。

昔から土地にある食材が改めて探し出され、丹念に準備され、記憶に残る一皿になる。それはデンマークのノーマでも常に繰り返してきた流れだが、膨大な人手を必要とすることでもある。欧州の高級店の多くで無給の研修生が労働力に組み込まれてきたことへの批判が高まり、ノーマも研修生への給料支払いを始めた。今の高級店のあり方は持続可能でないとレゼピさん自身、認めている。こうした流れの中、ノーマは25年以降、その姿を大きく変える。

デンマークの店は一旦閉め、新たな味わいを研究するラボとする。開発した商品はインターネットで販売。昆布等で取ったノーマ流「だし」など、日本への配送も始めた。

併せて今回のような期間限定店を各地で開催し、アイデアが蓄積したらデンマークでも料理を提供するという。「ファインダイニングで創造性を追求することは今後も変わらない」とレゼピさんは強調する。より持続可能な方法にするという。それは「ルーティンにとらわれず喜びを持って成長できるかも含めてです」と説明する。

新たな北欧の味わいをつくりだしてきたこの20年を、レゼピさんは「伝統を前に進めることができたかもしれない」と振り返る。「デンマークのような小さな国の伝統は、刺激し続けなければただの古いものとして廃れていってしまうのです」。レストランのあり方においても、ノーマは新しい伝統をつくっていく可能性を秘めている。

高倉万紀子

大岡敦撮影

【関連記事】

■NIKKEI The STYLEは日曜朝刊の特集面です。紙面ならではの美しいレイアウトもご覧ください。
■取材の裏話や未公開写真をご紹介するニューズレター「NIKKEI The STYLE 豊かな週末を探して」も配信しています。登録は次のURLから
https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=S004
■読者参加型イベントを実施するサロン「NIKKEI The STYLE Premium Club」を創設しました。詳しくは次のURLから
https://ps.nikkei.com/stylepremiumclub/

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( デンマーク「noma」 持続可能なレストラン見据えて - 日本経済新聞 )
https://ift.tt/bRTIOca

No comments:

Post a Comment