成田認
岩手県滝沢市穴口の森井麻里子さん(58)には、どうしても会いたい人がいる。勤めていたレストランに顔を出してくれていた同い年の女性だ。手がかりは女性にもらった奈良県の土産物だけだ。
森井さんは2010年ごろから、盛岡市に当時あった岩手医科大付属病院のレストランで、ウェートレスとして働いていた。患者や見舞いに来た家族、かわいい子供たちとの出会いがあった。医師や医大生らによるクリスマスコンサートはいい思い出だ。
14年ごろだったか、「カナマルさん」という女性がレストランに食事に訪れた。釜石市出身で、夫の転勤で奈良県に住んでいた。付属病院に入院していた父親に会いに来ていた。
「何を話したかは覚えていないが、時間を忘れるほど楽しかった」。年に2回ほどレストランを利用してくれた。同い年のためか気が合い、森井さんはハンカチをプレゼントした。お返しにカナマルさんからも奈良公園のシカをモチーフにした「しかまろくん」の茶巾袋や「にほひ袋」などをもらった。
だが16年ごろからカナマルさんはレストランに姿をみせなくなった。「会っている時に携帯電話の番号を交換しなかったことをとても悔やんでいる」。その後、レストランの経営者が変わり、森井さんは引き続き働きたいと望んだが、かなわなかった。
カナマルさんに会えなくなって5年ほどが経った。「このまま一生、会えないのは悔しい。茶巾袋やにほひ袋を見れば、カナマルさんもピンと来ると思う」。わらをもつかむ思いで、再会を望んでいる。(成田認)
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