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Thursday, May 19, 2022

泊まれるレストラン「オーベルジュ」が奈良にも続々 - 地と食を楽しむ特別な旅へ|奈良新聞デジタル - 奈良新聞デジタル

大和の自然と恵みを味わう
奈良県認定のオーベルジュを訪ねて

ガイド冊子は奈良県が発行
配布のほかサイトからダウンロードも可能

奈良のオーベルジュを紹介するガイド

 地域の食の魅力を感じながら観光を楽しむ「ガストロミーツーリズム」。その拠点の一つとして奈良県が位置付けるのが、宿泊施設を兼ね備えたレストラン「オーベルジュ」だ。そこには豊かな自然と文化に育まれた味わい深い料理やそれを生み出す人々が待っている。地の魅力を楽しむ特別な旅へ―。奈良県がオーベルジュとして認定した店の魅力を紹介する。

 県は県内のオーベルジュを紹介する冊子「大和の自然と恵みを味わう2022 ならのオーベルジュガイド」を発行した。掲載された各施設は、地域ならではの食を堪能でき、ロケーションも多種多様。お気に入りのオーベルジュ探しのお供にしてみては―。

 県は2020年度から、「地元ならではの食材を味わえる」などの基準を満たす施設を、認定オーベルジュに選定する取り組みを始めた。施設がある市町村から推薦を受け、県担当課が現地を訪問。施設側と協議の上で、オーベルジュとしてPRすることに協力してもらえる施設が選ばれるという流れだ。同年度、県は、第1弾のオーベルジュガイドを発行し、認定した11施設の食事や宿泊の情報、ロケーションなどを紹介した。

 冊子「大和の自然と恵みを味わう2022 ならのオーベルジュガイド」は、その第2弾だ。新たに追加された「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」(奈良県田原本町伊与戸)を含む計12施設のロケーション、歴史ある建物の特徴、料理のこだわりなどを掲載。それぞれのオーベルジュの個性的な魅力を伝えている。

 県食と農の振興部豊かな食と農の振興課は「それぞれのオーベルジュで地域ならではの食材を、ゆったりとした空間で楽しんでもらえる。奈良で観光と食事を楽しんでほしい」と話している。

 冊子(A4判、12ページ)は1万部作製。県観光案内窓口、道の駅などで配布しているほか、県が運営するサイト「ぐるっとオーベルジュなら」から無料でダウンロードできる。

掲載されているオーベルジュの所在地と連絡先

◆ume, yamazoe
 山添村片平452、電話0743(89)1875

◆農家のオーベルジュ こもれび
 橿原市今井町4の10の6
 電話0744(48)0458

◆うぶすなの郷 TOMIMOTO
 安堵町東安堵1442、電話0743(56)3855

◆そに木霊リゾート垰 ~TAWA~
 曽爾村太良路664、電話0745(88)9522

◆NIPPONIA 田原本 マルト醤油
 田原本町伊与戸170、電話0744(32)2064

◆十津川 湯泉地温泉 湯乃谷 千慶
 十津川村武蔵714の2、電話0746(62)0888

◆五條 源兵衛/旅宿 やなせ屋
 五條市本町2の5の17/
 本町2の7の3、電話0747(23)5566

◆オーベルジュ・ド・ぷれざんす 桜井
 桜井市高家2217、電話0744(49)0880

◆NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち
 奈良市西城戸町4、フリーダイヤル(0120)210289

◆森のオーベルジュ星咲 ~きらら~
 曽爾村小長尾658の1、電話0745(88)9155

◆奥明日香 さらら/農家民宿 sarara
 明日香村栢森137/栢森373
 電話0744(54)5005

◆賀名生旧皇居 KANAU
 五條市西吉野町賀名生1
 電話0747(32)0080

農家のオーベルジュ こもれび(奈良県橿原市)
くつろぎを古民家で 江戸時代へタイムスリップ

 近鉄八木西口駅を西へ。飛鳥川に架かる橋を渡ると、歴史的風情を残す町並みが目に飛び込んでくる。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている橿原市今井町。17.4ヘクタールの地区内に約500件の伝統的建造物があり、うち1軒の古民家の軒先で「農家のオーベルジュこもれび」ののれんが揺れる。

古民家を改修した「農家のオーベルジュこもれび」=橿原市今井町4


 山深い明日香村入谷地区で農家民宿を経営していた女将の恵良容子さん(46)が、築約150年の空き家を改修し、2019年1月にグランドオープンした。江戸時代にタイムスリップしたような雰囲気に引かれ、「ここで店を構えたい」と思った。

重厚なはりや高い吹き抜けが印象的な入り口

「農家のオーベルジュこもれび」を切り盛りする恵良容子さん

 メニューの素材には、県産の米、旬の野菜をふんだんに使う。「誰にとっても安全な食を提供したい」と、農産物はできる限り無農薬栽培にこだわる。オーナーで猟師でもある夫の崇さん(47)が捕獲したイノシシ肉を使った料理も予約制で出す。ランチはジビエカレー、ディナーは焼き肉や飛鳥鍋として味わえる。

 ランチの看板メニューは「花籠ランチ」(税込み1800円)。季節に応じた野菜の天ぷらと合いびき肉の煮込みハンバーグをメインとした6品目に白米、汁物、デザート、飲み物が付く。訪れた日の天ぷらは、ジャガイモ、わさび菜、エノキ、赤大根、ブロッコリーなど8種。一品には赤と白の大根をすりおろした大根餅、高野豆腐や切り干し大根などの煮物が並んだ。

旬の地元野菜をふんだんに使った「花籠ランチ」

 心掛けるのは「くつろげる空間」。自身も子育てをした経験から、特に「親子連れに気兼ねなく過ごしてもらいたい」と座敷席を用意している。「ゆっくりできた」「おばあちゃんの家みたいでほっこりできた」。そんな声がうれしい。

 宿泊は、レストランの奥にある蔵を1日1組限定で貸し切ってもらう。1階はリビング、2階は寝室として利用できる。食事の提供も可能だが、「今井町を丸ごと楽しんでもらいたい」と近くの飲食店で食べることも勧めている。

 店名の「こもれび」は、農作業の休憩中に、木に茂った葉の間から漏れ差す陽光をオアシスのように感じた自身の経験から取った。「県産の野菜、ジビエのほか地酒もある。『ここに来たら奈良を楽しめる』というような拠点になれば」と恵良さん。今井町の風情に引かれた人たちを、温かくもてなしている。

 【農家のオーベルジュこもれび】橿原市今井町4の10の6。月曜定休(祝日の場合は営業し、翌火曜日が休み)。ランチは午前11時~午後2時(L.O)で、ジビエカレーは前日までの予約制。ディナーは完全予約制で午後6時~9時半。宿泊は1日1組(1~3人)限定で、1人1万5千円(1泊2食付き)。素泊まりは1人7500円。問い合わせは、電話0744(48)0458。

古民家ホテル兼レストラン「うぶすなの郷TOMIMOTO」(奈良県安堵町)
陶芸の巨匠 富本憲吉を感じて

 安堵町東安堵の古民家ホテル兼レストラン「うぶすなの郷 TOMIMOTO」は、人間国宝(重要無形文化財保持者)第1号に指定された近代陶芸の巨匠、富本憲吉(1886~1963年)の生家を改修し、2017年にオープンした。地元産の食材を使った食事と、喧(けん)騒を忘れ、ゆったりとした時間を過ごせるぜいたくを味わいに、県内外から多くのファンが訪れる。行楽シーズンは予約が取れないほどの人気ぶりだ。

地元食材を生かした料理を提供する間料理長(左)と吉田マネジャー

 富本憲吉はイギリス人の陶芸家、バーナード・リーチとの出会いをきっかけに故郷の安堵町で陶芸を始めた。富本は故郷を「産土(うぶすな)」と呼び、作陶に故郷の土を使い、その風景を多くの作品の図案に用いた。富本の代表的な模様「四弁花」は、同施設に今も残るテイカカズラの花がモチーフになっている。

 生家は改修され、1974(昭和49)年から2012年まで富本憲吉記念館として利用された。閉館後は文化資源として保存・活用するため、公益社団法人ソーシャル・サイエンス・ラボ(奈良市)が土地建物を取得し、17年に「うぶすなの郷 TOMIMOTO」をオープンさせた。運営はワールド・ヘリテイジ(奈良市)が担っている。

 宿泊は1日2組限定で「日新」の客室は富本が過ごした和室を活用。もう一つの客室「竹林月夜」は富本とバーナード・リーチが見た竹林の風景を窓の外に再現し、富本の足跡を感じられるようにした。

 食事は同施設の間康正料理長(53)が安堵町の朝市や県内の産直市場を回って仕入れた地元産の新鮮な野菜を使用。食材とだしにこだわった和食を提供している。

 中でも一押しは宇陀市の畜産農家が育てる希少な牛肉「まほろば赤牛」だ。赤身と脂身のバランスが良く、とろけるような柔らかさが魅力で、県産のキノコや水菜、ゴボウとまほろば赤牛を使った鍋はランチの看板メニューとなっている。

 レストラン「五風十雨(ごふうじゅうう)」は宿泊客以外も利用できる。店名の五風十雨は5日ごとに風が吹き、10日ごとに雨が降る農耕に適した気候を意味し、豊かな自然の恵みに感謝し、そのすべてを味に託すという思いが込められている。建物改修にあたり、故・大野玄妙法隆寺管長から贈られた書から取った。

レストラン「五風十雨」

昼食メニューの一つ「うぶすなの箱」

 間さんは以前は大阪の料亭にいたが「奈良には大阪に負けない食材があり、いまだに新たな発見がある。手を掛け過ぎず、食材の味を生かすことを大切にしています」と語る。

 間さんが思いを込めた料理の魅力を客に伝えるのは接客スタッフの役割だ。吉田雄哉マネジャー(31)は間さんからその日の食材や食事の内容を聞き、仕込みの様子も見て、料理を提供する際に一品ずつの見どころを説明する。間さんの料理に合う地酒を選ぶのも吉田さんの担当で、富本が考案したデザインを使った酒器で提供している。

 吉田さんは「(うぶすなの郷は)大和の歴史文化を感じる土地にあり、富本憲吉が制作活動を行った場所。それらを感じながら、地元の食材を味わい、ゆったりとした時を過ごしてほしい」と同施設の魅力を語った。


 【うぶすなの郷TOMIMOTO】安堵町東安堵1442。レストランは事前予約制で昼食は午前11時~と午後1時~、夕食は午後5時~。昼食は「うぶすなの箱」5500円(税込み)など、夕食は料理長おまかせ会席「花」1万3200円(同)など。宿泊は1人1泊2食付き5万円~。問い合わせは電話0743(56)3855。

レストラン「五條源兵衛」宿泊施設「旅宿やなせ屋」(奈良県五條市)
町家で味わう農家直送野菜

 今はひっそりとしているが、かつての繁栄を伝えるには十分なたたずまいの町並みに、レストラン「五條源兵衛」はある。重要伝統的建造物群保存地区「五條新町」の一角。18世紀前半の建築とされる大型町家だ。

江戸時代の町家を改修した趣あるレストラン「五條源兵衛」


 米国出身の東洋文化研究者で京町家など各地の古民家再生事業で知られるアレックス・カー氏がリノベーションを監修し、平成22年に開業した。白のれんの門をくぐり、庭木を眺めるアプローチの先に「食のエンターテイナー」とも呼べる料理人、中谷曉人さん(41)が待っていた。

 4月は山菜たちがにぎやかに春を告げ、朝掘りのタケノコがドラマチックに焼き上がる。梅雨時のノカンゾウのオレンジ色の花は色鮮やかなピクルスになって皿を彩る。


 五條源兵衛の料理は「インスピレーション(=ひらめき)」だという。素材は野菜がメインで、客との対話や酒量、箸の進み具合などで好みを探りながら調理方法やコースの流れを決めていく。「それなので、約40種類の野菜を10品にしてお出しするミステリーコースなんです」と自信に満ちた笑みを浮かべる。

「五條野菜を味わうコースを世界基準にしたい」と話す中谷曉人さん

 中谷さんは隣の和歌山県橋本市出身。高校卒業後、奈良県内の料理店で3年働き、22歳で独立して五條市内に小さな店を開いた。しばらくして、行政やまちおこしグループが夢を描いた五條源兵衛の立ち上げから関わることになった。「地域のポテンシャルを高めるレストランにしよう」と全面的にプロデュースを担った。


 市内の農家を初めて訪れた時にかじった野菜が衝撃的においしかった。当初、「野菜のレストラン」は革新的で、「葉っぱしか出てこない!」と周囲は悲鳴を上げたが「野菜は五條の宝物だ」という中谷さんの信念は揺るがなかった。鮮烈な野菜の味を引き出す料理と宝物にふさわしい雰囲気の演出に努力を惜しまず、2017年には世界的グルメガイドの評価も獲得した。

地元の野菜が主役の料理(いずれも五條源兵衛提供)

 仕入れ先の農家は約40軒。中谷さんが注文して栽培してもらっているのではなく、農家が収穫に応じて野菜を提供する仕組み。なじみの農家の畑の植え付けや成長の情報をきっちり把握することで、半年後のメニューまで想定して予約やイベントの計画を立てる。五條源兵衛の人気を支えるのは農家でもあり「農家が進化することで地域の底上げにもつながる」と考えている。

 はす向かいに立つ大正時代の民家の離れと蔵を改修した宿泊施設「旅宿やなせ屋」も管理しており、利用者の多様なニーズに対応する。街歩きガイドを引き受けることも。また、五條源兵衛の敷地内に新たに加工施設を整備し、野菜の収穫体験と加工品作りのワークショップなども計画中だ。

 「地域のものを使い、地域とともに生きている」と話す中谷さんにとって、「地域観光」はごく自然な位置付けにあった。「ローカルな文化を求める海外観光客が増えるだろう」とアフターコロナも見据える。「五條は宝箱みたいなまち。レストランは情報発信基地でありたいですね」と地域の物語の新しいページを開こうとしている。


 【五條源兵衛】五條市本町2丁目5の17。昼食(3500円~)=午前11時、午後0時半の2部制▽夕食(6千円~)=午後5時半~午後8時半(完全予約制)。火曜日休み。電話0747(23)5566。
 【旅宿やなせ屋】五條市本町2丁目7の3。1棟貸しが2棟(定員2~5人)。宿泊単価=1万3200円~。無休。電話0747(23)5566。

※掲載している情報は取材当時(2022年3月)のものです。

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